発明の特許要件 新規性②
前回と同じく新規性について勉強しましょう!
目次
1.発明の新規性
(3)新規性の判断
(ⅰ)§29-1の規定の趣旨
(ⅱ)新規性判断の対象となる発明
(ⅲ)§29-1各号
(ⅳ)新規性の判断の基本的な考え方
(ⅴ)新規性の判断の手法
(a)請求項に係る発明の認定
(b)特許法§29-1(各項)に掲げる発明として引退する発明
(ⅵ)§29-1の規定に基づく拒絶理由通知における留意事項
(3)新規性の判断
(ⅰ)§29-1の規定の趣旨
公開の代償に独占権を付与=新規な発明であるべき⇒新規性を有しない発明の範囲の明確化
(ⅱ)新規性判断の対象=「請求項に係る発明」
(ⅲ)§29-1各号
(ⅳ)新規性の判断の基本的な考え方
請求項に係る発明が§29-1各号に掲げる発明かどうか。二以上の請求項は請求項毎に判断
(ⅴ)新規性の判断の手法
(a)請求項に係る発明の認定
①特許請求の範囲以外の明細書及び図面の記載の考慮の具体的手法
・請求項の記載が明確である場合:記載通りに発明を認定する
⇒ 請求項の用語の意味は,その用語が有する通常の意味と解釈する
⇒ 用語の意味内容が明細書及び図面にて定義又は説明されている:それらを考慮する
・請求項の記載が明確でなく理解が困難
⇒ 明細書及び図面並びに技術常識を考慮して明確化できる場合:これらを考慮する
・明細書及び図面並びに技術常識を考慮しても不明確:請求項に係る発明の認定は行わない
②特定の表現を有する請求項における発明の認定の具体的方法
ⓐ作用,機能,性質又は特性を用いて物を特定する記載がある場合
〇通常,以下のものを意味すると解釈する
・そのような作用又は機能を奏する事が出来る/そのような性質又は特性を有する物
*例えば「熱を遮断する層を備えた壁材」
⇒ 「断熱という作用・機能を奏することが出来る層」という「物」を備えた壁材
*例外:その作用等が,当該物固有の特性の場合,当該物の特定に役立たないという点
例えば「抗癌性を有する化合物X」において,抗癌性はX固有の性質の場合,Xの抗癌性について未知or既知に係らず,Xは必然的に抗癌性を有する
⇒ 「抗癌性を有する化合物X」=「化合物X」
⇒ Xが公知の場合,請求項に係る発明は新規性×
*ただし「化合物Xを含む抗癌剤」の場合は下記ⓑに従って新規性判断する
〇ある物をそれが有する作用,機能,性質又は特性で特定しようとする記載について
・原則として,そのような作用機能を奏する/有するあらゆる物と捉える
・ただし請求項に係る発明という概念の内包を考慮すべき
*例えば「木製の第一部材と構成樹脂製の第二部材を固定する手段」
⇒ 「固定手段」は熔接等のように金属用の手段を意味しないことは明らか
ⓑ用途・使用目的で特定しようとする場合(用途限定)
〇明細書・図面・技術常識を考慮して以下何れかを意味しているかを検討・決定する
・その用途に適した物
・その用途にのみ専ら使用される物
・その用途に特に適し,かつその用途にのみ専ら使用される物
*例えば「飛行機」と「水上離着水用飛行機」
後者が水上離着水に使用しうる特有の構造を有する
⇒ 前者に新規性を否定されることはない
〇「特定の組成を有する指輪用合金」指輪に特に適した組成の合金とは解されるか?
⇒ 同一の組成を有する合金と相違が無い場合,当業者が明細書及び図面その技術分野の技術常識を考慮して指輪用合金と解されるときにのみ新規性が否定されない
*例えば「殺虫用の化合物Z」以下の場合,Zが公知物質であれば新規性×
・殺虫用に特に適した構造を有しておらず,単なる「化合物Z」と何の相違もない
・明細書及び図面,技術常識を考慮しても殺虫用途にのみに用いる物を意図していると解せない
ⓒ物の製造方法によって生産物を特定しようとする記載
〇その製造方法による生産物を対象とするが,本質は最終的に得られた生産物
⇒ ▲異なる製造方法で同一生産物が製造でき,それが公知である場合,新規性×
(b)特許法§29-1(各号)に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定
①公然知られた発明
〇人を媒体として不特定多数の者により現実に知られた<<技術的に理解された>>発明
⇒ 講演,説明会等の内容において説明されている事実から発明を認定する
②公然実施をされた発明
〇機械装置,システムなどを媒体として,不特定の者に公然しられる状況又は公然しられる恐れのある状況において実施された発明
⇒ 媒体となった機械装置,システムなどに化体されている事実から発明を認定する
③刊行物に記載された発明
〇文言通り。記載事項の解釈に技術常識を参酌可能
⇒ 当該刊行物に記載されている事項から導き出される事項も発明認定の基礎となる
・刊行物に記載されている事項から把握される発明
・記載されているに等しい事項から把握される発明
〇マーカッシュ形式で記載された選択肢の一部
⇒ その記載事項単独で当業者が把握できる発明(引用発明)と言えるかどうかが要点
▲「引用発明」とすることができないもの
・当該刊行物の記載及び刊行物頒布時の技術常識に基づいて,その物が作れない
・その方法を使用できるものであることが明らかであるように刊行物に記載されてない
例)刊行物に化学物質名又は構造式はあるが,当業者が製造可能に記載されていない
④引用発明の認定に際して特に留意すべき事項
〇引用発明が下位概念で表現されている場合
⇒ 「同族的若しくは同類的事項,又は,ある共通する性質」を用いた発明を引用発明が既に示していることになる =上位概念で表現された発明の認定
▲引用発明が上位概念で表現されている場合
⇒ 下位概念で表現された発明が明示されていることにならない:発明は認定できない
(c)請求項に係る発明と引用発明との対比
・本願発明特定事項と引用発明を特定するための事項に相違が無い⇒▲本願発明は新規性×
・両者に相違がある場合 ⇒ 本願発明は新規性あり
・形式上又は事実上の選択肢を有する請求項(マーカッシュクレーム)に係る発明
⇒ ▲何れか一の選択肢を発明特定事項と仮定し引用発明と対比。差異なければ新規性×
*上記の手法に代えて,以下の手法によっても新規性を判断できる
・引用発明が,請求項に係る発明の下位概念に相当するかどうか
・実施形体として記載された事項以外も請求項に係る発明の下位概念である限り対比対象
⇒ ▲引用発明が本願請求項に係る発明の下位概念に相当すれば,本願発明の新規性×
*製法限定等を含む請求項についての取扱い
①ある生産物をその物の製造方法により特定しようとするもの=構造の決定が極めて困難
⇒ 当該生産物と引用発明の物との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずに,審査官が両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合:新規性違反の通知
⇒ 意見書・実験成績証明書等により,反論・釈明
⇒ 〇審査官の心証を真偽不明となる程度に否定できた場合:拒絶理由解消
▲審査官の心証が変わらない場合:拒絶査定を行うことができる
②作用,機能,性質又は特性により物を特定しようとする記載を含む請求項
・上記①と同様に一応の合理的な疑いを抱いた場合,新規性欠如の拒絶理由通知
(ⅳ)§29-1の規定に基づく拒絶理由通知における留意事項
・新規性判断の取扱いに従って一応の合理的な疑いに基づいて新規性が無い旨の判断に至った場合は,審査官はその一応の合理的な疑いの根拠を必ず示す。▲疑わしきは特許しない
・出願人はこれに対して意見書,実験成績証明書等により反論,釈明をする
⇒ 〇審査官の一応の心証を真偽不明になる程度まで否定できた場合には,拒絶理由は解消
⇒ ▲審査官の心証が変わらない場合には,新規性の欠如の拒絶理由に基づく拒絶査定
長くなってしまいましたな。
以上でーす!